死亡事故が起きたらそのイベントは中止すべきか?

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ここ2週間くらい立て続けにサーキットでの死亡事故が話題にあがりました(実際には他にも事故は発生しているのかもしれませんが、ニュースで取り上げられたという意味)。

5月24日、ツインリンクもてぎでの事故。その日は「ライディングクラブ」というイベント日だったので、おそらくこれの参加者が事故に遭ったのでしょう。

ライディングクラブはもてぎで行われている様々な走行会・スクールの中で最も敷居が低く、サーキットデビューをしたい方向けという位置づけ。サーキットライセンスも要りません! 初めての走行会でもサポートします! というのを売りにしていたイベントでの死亡事故は、そのイベントの参加者でも関係者でもない私ですらとても複雑な気持ちになります。

ニュースによると、単独で3コーナーを曲がりきれず(曲がろうとした形跡すらほとんどなかったようですが)、グラベルを通過してタイヤバリアにぶつかったというもの。3コーナー手前の直線はSSモデルだったら200km/hは出るでしょう。その後の3コーナーはかなりタイトで一気に70km/hくらいまで落として曲がりますが、もしかしたら思ったより急に迫ってきた3コーナーに驚いてなにも出来ず、、、もしくは何らかのトラブルでブレーキが効かなかった、、、という流れだったのかもしれません(あくまで私の推測)。

私も過去に、筑波ライセンス取り立てのL枠走行で、最終コーナー手前で似たようなシーンを見たことがあって(減速らしい減速もできず、ほぼ直進していった)、それを見たからと言うわけではありませんが、とにかくパニックにならないように常に「安全マージン」をかなりとって走行するようにしています。

もう一つ、Moto3のジェイソン・デュパスキエ選手(Jason Dupasquier)の訃報。Moto3予選で転倒し、複数ライダーと接触して重体でしたが、決勝日に亡くなったということが発表されました。

予選の映像から、救急ヘリがなかなか飛ばなかったというコメントがあったり、ニュースでin a very serious condition(重体)と言われていたのでたぶん厳しいのかなと思ってましたが、残念ながらという結果になってしまいました。

以前、「サーキットでの死亡事故を考える」というのを書きましたが、改めてこう立て続けに訃報を耳にすると、やっぱサーキットで危ないんだなーと再認識させられますね。確率論じゃないですが、サーキットに行こうか行くまいが事故るときは事故るし、もらうときはもらうものかなと思うんですが、サーキットで走行するということは、わざわざその機会を増やすことにはなるなーと。

一般的にもこの考え(サーキット=危ない)が主流で、例えばバイクのレンタルサービスでは「公道以外を走行した場合」は保険・補償が受けられない場合があるという注意書きがありますし、(レンタル819の「保険と補償」ページより)

損保でも保険金を支払わない場合として「被保険自動車を競技もしくは曲技のために使用
すること」とかいう文言が約款に書かれています。堅苦しい表現ですが、サーキット走行はこれに該当します(チューリッヒの「スーパーバイク保険約款」より)。

つまり、サーキット走行は普通じゃない、ケガとか事故あってもうちは補償しないから、というのが一般的な解釈です(これだとさすがに補償が薄すぎるので、各サーキットではライセンス加入/更新時に保険の加入も義務づけています。筑波では「スポーツ安全保険」、もてぎでは「MS共済会」)。

筑波では走行券を買うときに「念書」を出す訳ですが、そこにも「死んでも誰にも文句言いません」という旨の記述があって、サインをするんですが、要するに「死ぬ可能性がある」というスポーツなわけです。私もこの念書をもう何百枚と出してますが、だってこれにサインしないと走らせてくれないから、サインするしかないんですよ(笑) でも冷静に考えると「常に救急車が待機しているスポーツ」なわけで、そんなスポーツ他にありますか??ってこと。

筑波ライセンスをお持ちの方なら何度となく書いてる「念書」。やらしい言い方になりますが、運営側からするとこれがないとなにかあったときに責任があいまいになる可能性があって。別に念書を書いてもらったから事故が起こってもいいとは決して考えてるはずはないと思いますが、後で裁判沙汰になることもあるのでこういうものが必要になってきます(ライセンス取得時にも提出してますが、筑波では毎走行時にこれを提出するルールになってます)。

一方、主催者側もなにも対策していないわけではなくて、サーキットでの安全対策は年々重ねられてますし(もちろんサーキットにより安全対策のレベル感は差がありますが、それでも基本的には上がってる)、自分の身を守るプロテクターやエアバッグも相当進化してます。

交通事故って1980年代と比較すると半分以下に減ってます。さまざまな安全対策、意識改革の結果だと思いますが、おそらくサーキットでの事故も過去に比べると同じような傾向をたどってるんだろうと思います(政府の統計表ページより)。

ロッシも先週のMoto3事故を受けていくつかコメントを残しています。(引用元はこちら

「サーキット走行でのさまざまな安全対策を取ってきた」「しかしさらに手を尽くさないといけない」「ランオフ広げたり、エアバッグを装着したりしてきた」「しかしそれでもシモンチェリ、富沢のように、誰かに引かれてしまうことへの対策はとても難しい」

ロッシは去年のレッドブルリンクでの、あわや大惨事というのを体験してきたのもあって、(それだけじゃないですが)安全対策には人一倍声を上げているように見えます。

オリベイラはMoto3のバトルが相当危険だとも言っています。(引用元同じ)

「お互い近づきすぎてバトルしてるのが問題だ」「特にムジェロはスリップストリームがとてもきくので、6,7台くらいの隊列で走行してる。Moto2やMotoGPでさえも同様の傾向がある」「バイクが遅くなればより安全になるのは明確だが、それって現実に起こりえるんだろうか」

パフォーマンスをあえて落とすというのは技術の進化に逆行することになるので、なかなか難しい判断かもしれませんが、「危険なスポーツ」が万人受けし続けることもないだろうと個人的には考えます。

こうなるとどうしても出てくる話題が「そんな危険なスポーツ、やらなけりゃいいんじゃない?」とか「死亡事故が起こっても決勝レースやる必要あるんだっけ?」とかいう話題。

シモンチェリの事故の時にはレースは中止されましたが(決勝の真っ最中に事故→赤旗→中止)、今回は中止になっていません。この件についてロッシは

「レースを決行する、キャンセルする、どちらにしても結果(ジェイソン・デュパスキエ選手が亡くなったこと)は変わらない」「みんな帰りたがってるが、レースが待ってる」「もしレースをキャンセルしたほうがいいかと聞かれたら、賛成しただろう」

とコメント。ライダーや関係者の気持ちとして決して「今回の事故は中止に値しない、それほど深刻ではない」という判断ではないのはロッシのコメントからも分かると思います。でも彼らはアスリートで結果がすべてなわけで、レースが待ってればそれに答えるべきというところなんでしょう。メンタルやられちゃいそうだなー、自分だったら(ま、自分はレースをなりわいとしているわけじゃないですのであくまで妄想の域ですが)。

「わかった、わかった、プロレーサーは確かに結果でメシ食ってるんだからそうだろう。でも一般人がわざわざサーキットで走らなくても・・・」という意見もあるかなと。ここはおっしゃるとおりだと個人的には思います。

私は登山をやらないので雪山遭難事故とか見ると「なんでわざわざ冬に山登りするんだよ」とか思うわけですが(登山家の方ゴメンナサイ!)、でも逆のパターンもあるわけで、「なんでわざわざサーキットで危険隣り合わせで走るのよー」という意見ですね。もうこれは「だってやりたいんだもん」としか言い表しようがないかなと。雪山も「だって登りたいんだもん」だと思うんですよね。ルールをしっかり決めて、安全対策して、そのなかで楽しむというものかなと思います。

こう書くのは良くないとは思ってますが、今回のもてぎ事故では巻き添えがいなかったのがなにより? 「なにより」と書くのが適切か分かりませんが、万が一誰かに追突して、そしてその追突された方が亡くなったりしたら悔やんでも悔やみきれない状態になっちゃうなと。

イベント型走行会に限らず、今後はより一層の安全対策が施されることになると思います。サーキットで走行する方々への意識付けというのもさらに高められるでしょう。筑波でももてぎでも「走行前ブリーフィング」への時間のかけ方がどんどん丁寧になってると感じてます(私が走り始めた2010年ころはそもそも筑波で走行前ブリーフィングやってなかったですから)。

参加者一人一人の安全意識を高め、とにかく事故を未然に防いでいく心がけということ。これが結果的に「そんな危険なイベントやめちまえ!」という声が一人歩きしないようにと出来るはず(今のところそういう声は起きてないと思いますが)。

私自身、このようなニュースを立て続けに聞くと「やっぱサーキットって危険だよな」と思うし、「走らない方がいいのかな」とか考えたこともやっぱあって、でもやっぱり「走りたいんだもん」というのも当然あり、出来るだけ安全に、出来れば長いこと楽しみたいなーと改めて思う次第です。

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